人口減少、少子高齢化や海外情勢による経済リスクが依然としてぬぐえない日本経済において、活力ある中小企業の活躍が不可欠です。
一方、中小企業を取り巻く環境としては、経営者の高齢化や資金不足その他、大手企業とのパートナーシップの構築が不十分な状況にあります。
これらの課題について税制面で後押しすべく令和2年度も税制改正がなされていますので簡単にご紹介します。
オープンイノベーション促進税制の創設
中小企業において外部事業者の連携は必要な技術・ノウハウや⼈材の補完など得るものが多い、一方、連携の主なスキームである出資については1,000万円/件以下の投資が中心となっており、より強い連携・オープンイノベーションを実現するためには、⼀定規模以上の出資を促進していくことが重要と考えられています。
そこで、大手企業が中小企業に1億円以上出資する場合、法人税を算定する基礎となる所得に対して出資額の25%に相当する額の控除を受けられることになりました。
だれが |
国内事業会社もしくはそのベンチャーキャピタル |
いくら |
1億円以上/件 |
だれに |
創業10年未満で未上場の中小企業 |
どのように |
出資(既存株式の取得は対象外) |
いつまで |
適用期限は令和3年度末まで |
なお、事前の審査などはありませんが、出資後の事業年度が終了した段階で、各出資が出資した事業会社および出資を受けた中小企業双⽅に有益で制度を濫⽤するものでないことの報告が必要となっていますので、ご注意ください。
いずれにせよ、中小企業から大手企業へ出資を依頼する際の営業トークにも使えると思いますので覚えておくとよいでしょう。
エンジェル税制の拡充
設⽴5年以内のベンチャー企業を対象とした現在あるいは近い将来の経営ニーズとしては資金調達が最たる事柄となっている一方、エンジェル投資額の各国比較では米国(2016年)で2,000億強となっているのに対して、日本(2017年)では、45億にとどまっています。
エンジェル税制が導入されてしばらくたちますが、より使いやすくなるよう今回改正が行われました。
改正の内容は以下の通りです。
- 1.投資額相当の額を所得から控除される優遇措置Aの対象企業の要件を設立3年未満から5年未満へ拡充
- 2.優遇措置Aについては、中小企業は都道府県の最⼤20種類程度の書類にて都道府県へ企業要件の確認申請を行わなければならないところ、一部認定を受けた民間ファンドでも確認事務が可能になった
- 3.また、認定クラウドファンディング事業者も優遇措置A、B問わず、確認事務が可能となった
認定クラウドファンディング事業者も確認事務が行えるようになったことかと思います。案件が集中する東京では労働産業局が確認事務を行っていますが、全然回っておらず、確定申告の時期を過ぎても税務申告必要な書類が送られてこないということが良くありました。(所轄の税務署に個別に相談して、事後提出で対応)
また、認定クラウドファンディング事業者はマーケティングも得意としていますので、中小企業としてはファイナンスを行っていることを広く知ってもらえる機会が増えることになるでしょう。今のところ各クラウドファンディングから目立った発信は行われてないようですが、今後出てくると思いますので注目しておくとよいでしょう。
改正について欲を言うと、中小企業側の確認事務の負担がもっと削減されるとよかったと思います。ただでさえリソース不足のところ、最大20種の書類をそろえるというのはかなりの負担となりますので、次回は事務軽減の改正をしてもらえるとよいと思います。
少額減価償却資産の損金算入の特例の延長
中⼩企業者等が30万円未満の減価償却資産を取得した場合、合計300万円までを限度に、即時償却(全額損⾦算⼊)することが可能となる税制措置が2年延長され、令和3年度末まで利用できるようになりました。
きちんと収益予測を立て、年度末までに利益が出るような見込みがあれば、従業員用のPCの入れ替えなどしてあげられるとモチベーションも上がるのではないでしょうか。
交際費課税の特例措置の延長
中⼩法⼈については定額控除限度額(800万円)までの交際費等を全額損⾦算⼊することが可能となる税制措置が2年延長され、令和3年度末まで利用できるようになりました。
とはいえ、交際費の使い過ぎには注意しましょう!
中小企業の再編・統合等に係る税負担軽減措置の延長
後継者不在のためM&A等を通じた事業の再編・統合を行う場合に、認定を受けた経営⼒向上計画に基づいて事業資産である不動産の移転等があった場合、それにかかる登録免許税・不動産取得税を軽減する税制措置が2年間延⻑され令和3年度末まで利用できるようになりました。
登録免許税の税率
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通常 |
計画認定時税率 |
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不動産の所有権移転登記 |
合併による移転 |
0.4% |
0.2% |
分割による移転 |
2.0% |
0.4% |
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その他の原因による移転 |
2.0% |
1.6% |
不動産取得税
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通常 |
計画認定時税率 |
土地/住宅 |
30% |
1/6減額相当 |
住宅以外の家屋 |
4.0% |
1/6減額相当 |
※実際の税務申告の際は税理士等専門家にご相談ください
最後に
税制優遇策にも反映されるように近年は銀行からの借り入れに限られない多様な資金調達方法が現れてきています。
税制優遇を受けられるのは出資する投資家側ですが、こうした制度に精通した中小企業が資金を効率的に集め成長につなげることになっていきますので、出資を受ける中小企業側も無関心ではいられません。
こうした税制優遇を十分に活用して、事業を有利に進めて行くことが重要です。