経営者が高齢となったあとに後継者が見つからないという問題や、コロナの流行などを含む景気の影響での事業の悪化などを理由に、現在経営している中小企業の運営をこのまま継続していくべきか悩まれている経営者の方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、中小企業の継続・撤退のメリットデメリットの比較や、撤退する場合の方法などについて解説します。
中小企業経営の現状
中小企業が我が国の企業に占める割合は9割超といわれており、中小企業の存続、廃業は日本経済に大きな影響を及ぼす重大事といえます。
ところで、日本の中小企業経営をとりまく現状はどうなっているのでしょうか。
以下のような要素から中小企業の経営環境は、必ずしも順風満帆な状況とはいえない状況で、中小企業の経営を継続するかどうかは経営者の大きな悩みの一つとなっています。
市場環境
中小企業庁による中小企業白書によれば、中小企業全体の業況は、リーマン・ショックにより大きく落ち込んだあと、東日本大震災や消費税率引上げなどの影響は受けつつも、2019年まで緩い回復基調にありました。
ところが、2019年には、米中貿易摩擦による輸出の減少や、消費税率の再度の引き上げによる景気の冷え込みなどにより横ばいから全体的に低迷傾向にあります。
後述するように、2020年のコロナウイルスの影響による景気の落ち込みの影響がいつまで続くかも懸念されます。
後継者問題
2020年に発表された上記中小企業白書によると、年間4万者以上の中小企業が休廃業、解散をしているというデータがでています。
会社の経営が立ち行かなくなると、企業は倒産をすることになりますが、倒産ではなく休廃業する企業の多くは、経営が黒字となっている企業です。
これらの企業は、経営者が高齢化し後継者がいないことが原因で廃業しているケースが多いようです。
培われた技術や従業員等を継承していくノウハウが中小企業側になかったり、家族経営企業などで子供の世代が親の事業を承継することに興味がなかったりまたは親のほうが子供を巻き込みたくないと考えていたりすることが主な要因と考えられます。
コロナウイルスの影響
2020年全世界をおそったコロナウイルスの大流行は、多くの中小企業の経営に影響を及ぼしています。
コロナウイルスによって、中国との貿易が減少し、またインバウンドをはじめ外出自粛による国内での消費の冷え込みから多くの中小企業において業績が悪化しています。
上記の白書によれば、行政が設置している「新型コロナウイルスに関する経営相談窓口」には、主に事業を継続する資金繰りについて、3月末までに30万件近く相談がきているようです。
緊急事態宣言が解除され、少しずつ日常生活に戻りつつありますが、コロナウイルス収束にはまだまだ時間がかかると考えられており、今後も中小企業の経営にとっては大きな課題のひとつとなりそうです。
中小企業を継続することのメリット/デメリット
上述のように中小企業をとりまく経営環境は厳しいものがあります。
このまま事業を継続するべきか否か迷われている経営者の方にとって、中小企業を継続した場合のメリットとデメリットにはどのようなものがあるでしょうか。
継続のメリット
事業そのものが黒字であって後継者も見つけられそうという状況であれば、中小企業を継続することには以下のようなメリットがあります。
まず、経営者の方が長年愛着をもって運営してきた事業であれば、この先もそれが継続できることは喜ばしいことでしょう。
事業を継続することにより、中小企業にかかわってきたステークホルダーにもメリットがあります。
例えば、事業の継続により、取引先の仕事がなくなることを防いだり、地域社会の活性化にもつながったりする可能性があります。
また、従業員が失業することを避けることもできます。
不景気だと、従業員の再就職の可否も心配ですが、継続により雇用を確保できます。
また、政府からコロナウイルスの影響を受けている中小企業への持続化給付金として個人事業主に100万円、法人に200万円が給付される予定もありますので、事業を継続している場合に受けられる経済的なメリットもあります。
継続のデメリット
経営者が会社経営を精神的に負担に感じている場合は、事業継続を選択すると、その負担から解放されないというデメリットがあります。
また、単に後継者がいないだけで完全に黒字経営の会社であれば別ですが、景気の影響を受けて業績悪化などでも苦しまれている場合は、継続により現在よりも業績が悪化した場合、最悪倒産という結果になってしまうことがあります。
倒産は、自主的に事業をたたむ廃業とは異なり、資金繰りが困難になり、取引先への債務支払や従業員への給与支払いができなくなり経営が破綻することによって、強制的に事業を終了せざるを得なくなることをいいます。
倒産する場合は、裁判所に対して破産申請の申し立てを行い、裁判所によって任命された破産管財人によって残余財産の売却と債権者への分配が行われます。
このような状態だと、各債権者は満額の返済を受けることは難しくなるので、取引先や従業員に迷惑をかけてしまうことになります。
また、債務整理というあまり名誉ではない事態による経営者への精神的な負担も大きいと言えます。
中小企業の経営から撤退するための手段
相続や従業員への事業承継
親族の相続等
子供やその他親族の中に後継者候補がいれば、事業を継がせるという選択肢があります。
事業承継には株式の相続や贈与が発生しますので、税金の問題や家族内で争いが起きないように注意が必要です。
従業員等の承継
会社の役員や従業員の中に、経営を承継させるのに適した人物がいる場合、その人に株式の買収という方法により事業承継をさせるという手段があります。
これらの手法では、事業承継対象の会社のことを既によく知っている役員や従業員で、現在の経営者が力量を信頼できる人に会社を承継させることができるというメリットがあります。
また、承継前と承継後で企業文化が大きく乖離する可能性も低いので、現在いる従業員にとっても安心といえるでしょう。
なお、事業後継者が株式等の事業用資産を買い取る十分な資金がない場合、プライベート・エクイティ・ファンドなどから資金協力を得て、ファンドに株主となってもらうということもあります。
M&A
社外の第三者に対して事業を売却する方法を、M&Aといいます。
ひとくちにM&Aといっても、株式売却、会社合併、会社分割、事業譲渡などさまざまな手段がありますが、特に中小企業の経営者が引退を希望される際の手法としては、当該経営者がもつ株式の売却が利用されることが多いです。
株式売却によって、売り手の経営者としては、事業を承継させつつ、所有している株式を現金化できるというメリットがあります。
会社にとっても、法人としての実態や、これまで締結してきた契約等は変更がないので、経営者交替により大きな影響を受けずに存続できるというメリットがあります。
清算・廃業
親族や従業員などへの承継や、M&Aが難しい場合は、会社清算手続きを行い、廃業という選択肢となります。
清算とは、会社を解散させ、事業で発生した債権と債務を整理することをいいます。
具体的には、会社が有していた不動産や有価証券の現金化、取引先への買掛金や売掛金などを処理し債権債務を整理することなどが必要です。
清算後に会社に残る資産は、原則として株主間で分配されます。
資産が残る場合は、経営者の老後資金の獲得になることもあります。
但し、M&Aとは異なり、これまで愛着を持って経営してきた会社が存在しなくなってしまうことになりますので、従業員や取引先などの整理が必要になるので注意が必要です。
各手段における手続き
事業承継させる場合の手続き
中小企業の経営権を子供や従業員などに相続させる場合は、以下の手続きを行う必要があります。
まず、後継者として選んだ人に、株式を移転させる必要があります。
株式会社は、株式数に応じて株主に議決権が付与されるので、経営権を握るためには後継者に、先代のもっていた株式を、贈与や相続などで移転させる必要があります。
なお、事業承継税制といって、会社を承継させることを目的とした株式の移転については、贈与税や相続税の猶予措置等がありますので、行政書士や税理士等に相談しましょう。
次に、経営者が個人で保有しているその事業用の資産、たとえばオフィスや機材などがある場合には、これを機に会社へ帰属させることが望ましいといえます。
後継者に事業承継させることについては、他の従業員や役員に周知し、受け入れてもらえるよう準備をしつつ、後継者を育成し徐々に経営権をうつしていくようにしましょう。
M&Aの手続き
M&Aは、第三者が対象会社の発行済み株式を取得することにより、その会社の経営権を取得する方法です。
株式を取得する方法にはいくつか種類がありますが、中小企業のM&Aの大半を占める方法が、株式譲渡といい、自社株式を買収側の企業に売却する方法となります。
売却をした経営者にはキャッシュが入り、購入した側もそのまま事業を継続できるシンプルな方法です。
会社清算の手続き
株式会社を清算する場合、株主総会の特別決議による必要があります。
特別決議は、発行済株式総数の過半数の株式を有する株主が出席したうえで、議決権の3分の2以上の賛成により決議されるもので、普通決議よりも多くの株主の賛成が必要です。
通常、解散決議と同時に、会社が解散された後の清算事務を行うべき清算人を選任します。
清算人は多くの場合代表取締役などの経営者がなります。
その後、解散の日から2週間以内に、会社の解散と清算人選任について登記をしたり、各種行政庁に届出等を行います。
清算人は、解散された会社の現在の財産を調査したうえで財産目録と貸借対照表を作成し、株主総会の承認を得たうえで会社に保管します。
その後、残債権債務の清算を行い、残余財産については株主に分配します。
分配後、税務署に確定申告を行い決算報告書を作成したうえで、株主総会の承認を受けます。
株主総会の承認をもって、会社の法人格は消滅することとなり、清算決了の登記を行います。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
中小企業を経営者の方の中には、後継者問題や社会情勢などを鑑みて事業を継続するか悩まれている方もいらっしゃるでしょう。
中小企業の経営から撤退する方法としては、親族や従業員など後継者に承継させる、M&Aなどで第三者に売却する、会社を清算するなどの方法があります。
状況によっては、タイミングよく正しい手続きで中小企業を廃業、撤退することも、経営者の方の今後の人生をよりよいものにするために重要な判断といえるでしょう。
とはいえ、事業を継続したほうが良いのか、廃止したほうが良いのかの実質的な判断も様々の事情、制度、手続きを考慮する必要が出てきます。
後悔しない判断を行うにも行政書士など各種専門家に相談してみることをお勧めします。